穏やかな春の日のお茶漬け

ようやく春らしい日がやってきた。

例年よりも寒い日が続いて

冬物のコートをしまおうとしてはまた着るような

なんだか落ち着かない日々だった。

 

20年間、私は冬と言う季節が好きなのだと信じて生きてきたけれど

私が好きなのは春だと

21年目にして気がついた。

 

私にとって春は、キノコバター茶漬け。

泣きながら家を出た休日の午後

友達と初めていった大学近くのカフェで食べた

キノコバター茶漬け。

 

私の記憶はいつもそう言った何かとともにある。

全てをかけたピアノも部活も賞状たちも

文化祭の涙も汗も

友達の顔や名前も

あんなに全てを持っていた高校時代を

思い出そうとしても思い出すのは

春物のカーディガン。

 

少し分厚い、首元と手首に白いラインの入った

ネイビーの大きなカーディガン。

ブレザーだと汗がじんわりとしみ込んできて

でもカーディガンだと寒くて。

ブレザーを着たり脱いだりするのが好きだった。

 

私の春は

ネイビーのカーディガンとキノコバター茶漬けと共に

穏やかな幸せとして存在している。

 

春になる度に

私は知らない誰かに恋をしていて

春になる度に

やるせなさも寂寞も笑い飛ばしてくれるようで

自分は何者にもなれるのだと

全てをやり直して生まれ変われるのだと

本気で信じている。

 

だから私は春が好きで春に恋していると

気がついた21年目の春。

穏やかな日の差すカフェにて。

 

そんな日でした。